上野千鶴子さんの位置取り (「『女の品格』『おひとりさまの老後』から思うフェミニズムの行方」改題)

執筆者:斉藤正美

坂東眞理子さんの『女性の品格』、『親の品格』、それに上野千鶴子さんの『おひとりさまの老後』などフェミニストにより執筆された本がベストセラーの上位に食い込んでいる。お二人は自他共に認めるフェミニストである。そのお二人の本がベストセラーになっている。ウーマンリブの頃とは違い、フェミニズムが日本社会に受け入れられるようになったんだなあと思う今日この頃だ。ついでに言うなら二人とも富山県出身だこと!(その考察はまた改めて・・)

紀伊國屋書店単行本本週間ランキング(12月31日-1月6日)では、『おひとりさま』が3位、同新書ランキングで『女性の品格』が1位、『親の品格』が2位といずれもトップを占めている。文教堂(10分おき更新)では、総合で『女性の品格』が2位、『おひとりさま』が10位に入っている。

「品格」を説く書は啓発本である。『おひとりさま』は読んでいないのでよくわからないが、読者からは「老後の心構え」本と受け止められているのではないか。意識啓発で押してきた主流フェミニズムの面目躍如だなと思う。同じく現在何冊もベストセラー入りしている、坂東さん、上野さんより2周りほど若い勝間和代さんの本は、『効率が10倍アップする新・知的生産術–自分をグーグル化する方法 』などキャリアアップのための「サバイバル本」である。シニア世代は、「品格」という心構えを説き、若い世代は「サバイバル」のための仕事術を伝授する・・・。なんと好対照であることか。なんと世代格差を感じさせることよ。

フェミニズムが日本社会に浸透した今だからこそ、言っておきたいことがある。それは、社会で主流になりつつあるフェミニズムだからこそ、女性の中の多様性を積極的に肯定する動きが必要となっているということだ。要するに、女性の間での違いや批判を積極的に受け止めようということであり、自らを批判的に見ることができなければいけないということだ。新たに求められるフェミニズム像については、macskaさんによって「第三次フェミニズム」 (第三波フェミニズムともよぶ)として1998年にまとめられている。

しかしながら、実際はそうではない方向に進んでいるように思う。例えば、日本女性学会研究会レポ:守旧化するフェミニズム?マッチポンプ、あるいは、対立の禁止が対立をつくりだすで書かれているように、「フェミニズムにとって今闘うべきはバックラッシュである」という大義名分を掲げ、「対立をあおらず共闘、連帯しよう」と叫ばれ、学会運営などでフェミニズム批判がおさえこまれたものになっている。わたしもいろいろ声を上げているが、真剣に取り上げられ改善されたとはなかなか思えない。「バックラッシュ」が名目として便利に使われているのではないかという疑いさえ生じる。

2004年12月、上野さんが主宰されている東京大学ジェンダーコロキアムで「ジェンダーフリー概念」から見えてくる女性学・行政・女性運動の関係」という企画を山口智美さんとわたしで提案した。(報告を参照ください。)しかし、その頃から現在までの3年の間に、女性学をめぐる地図はだいぶ変わってしまった。残念なことに、よりいっそう閉塞的で多様な声が出ずらい状況になっているというのがわたしの見方だ。フェミニズム運動がよりいっそうおだんご状にまとまった気がする。相互批判がなくなり、多様な意見が上がってこない。

それに関連したエピソードとして、上野さんのフェミニズム運動における位置取りが変化したことがある。3年前東大ジェンダーコロキアムでの「ジェンダーフリー概念」企画の時は、東京中心の行政一体型フェミニズムを批判した山口智美さんや私に上野さんは、「私がこういう場に出られる理由は、私は行政と結託していないほうですので、ジェンダーフリーがバッシングを受けても、私自身がその対象にならなかったために、痛くもかゆくもない」と見得を切っておられた。そして、自ら行政とは一線を画していた「非主流派(?)」を主張されていた。ただし、『上野千鶴子対談集・ラディカルに語れば・・・』(平凡社)での大澤真理さんとの対談を見る限りでは、上野さんが「行政と一線を画していた」とは必ずしも言えないと思うが、上野さんが「ジェンダーフリーを死守せねば」というフェミニズムの主流派と意見を異にしていたことは確かだった。

しかし、その後、主流フェミニズムに対して批判的なわたしたちのスタンスはウェブで示しているように変わっていない一方、上野さんはその後メーリングリストを開設し、かつて「行政と結託している方の人たち」と呼んでいた方たちと共に集会を開いたり、それをまとめた『「ジェンダー」の危機を超える!』(青弓社)を共に刊行するなど行動を共にするようになっておられる。ジェンダーコロキアムに企画を出したことから、上野さんと同じ考えだと誤解される方もないとは思うが、明確にしておきたい。傍目には、上野さんは今や行政と連結した主流フェミニズムのリーダーとすら目されている状況にある。

しかし、今やフェミニズムは孤高の人ではなく、行政とも連動してやっていけるし、その考え方がベストセラーにもなるほど受け入れられている。この現状を真っ当に認識する必要があるのではないか。いつまでも自分たちを「少数派」や「弱者」の位置において安住しようとするのは、現状を読み違えている。もちろん、行政との連携ゆえに今の男女共同参画政策が意識啓発に偏ることも受け止め、本筋の性差別是正へと軌道修正すべきである。今の男女共同参画政策が意識啓発に偏るから右派の道徳重視派から反発を受けている部分が大きいのである。それをせずに、「バックラッシュ」を大義名分として持ち出し、内部批判を封じたり、スルーしたりするのでは、フェミニズムは先細りになるだけだ。いくら覇権を握っているのがシニア世代だからといって長生きできなくてもいいということにはならない。

私からの提案としては、批判を含めて内部の議論を活発にすること、メーリングリストや更新の少ないHPにとどまることなく、議論をウェブ時代に適応して拓いていくことをあげておきたい。あー、『女性の品格』には、インターネットは危険なので近寄らないのが女性の品格だといった趣旨のことが書いてあったんだ・・・。(2008-01-13 ジェンダーとメディア・ブログ・エントリー)

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