ヌエックが「戦略的推進機関として創設」される?!

去る八月二八日、国立女性教育会館(略称:NWEC,ヌエック)の在り方に関する検討会(以後、ヌエック検討会と略す)が、報告書を発表した。

この報告書は、約三年前ヌエックが事業仕分けの対象となり、蓮舫議員とヌエック理事長の神田道子がバトルを繰り広げたのはいったい何だったのかと思うほど、ヌエックを現状維持で存続させると述べているものだ。

私は、かつて、シノドスでヌエックと箱モノ問題について書いたが、10月末に出る新刊『社会運動の戸惑い  フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』(勁草書房)でも、ヌエックについては一章をあてて書いている。ヌエックが設置された背景やだれが運営に関わってきたかなど詳しくはそちらをご覧いただきたい。

まず今回は、1)ヌエックが一体どこにいこうとしているのか、2)税金で運営される施設の費用対効果としてどうなのか、3)そもそも一体ヌエックはなぜ存続されることになったのか、など、検討会がまとめた報告書をみながら、ヌエックの現状と方向性についてかいつまんで書いてみたい。

1)ヌエックが一体どこにいこうとしているのか

まず、ヌエックの方向性だが、報告書は「男女共同参画社会の実現を図る新たな推進機関を創設すべきであるとの結論に達した」と結論づける。「新たな推進機関を創設?」 どんな機関? ヌエックとは別に創設するの?と思うのは早計だ。ヌエックの建物を壊して新たな建物を建てるわけでは決して、ない。

ちょっと安心したあなた。じゃ、何をどう創設するの?と思うだろう。報告書を見ると、ヌエックが平成二四年度のヌエックの業務計画で示したものと、在り方検討会で示されている新たな創設機関が行うこととの間には大きな変更箇所は見られない。いずれも、教育・学習支援機関であること、女性教育のみならず男女共同参画社会の実現に貢献することをその方向として示している。

さらに、目を凝らして見ると、変わるのは、まあ名称らしい。新たに「戦略的推進機関を創設」するという。「戦略的推進機関」という名称、あるいは位置付け(?)が新たに「創設」されることのようだ。そして、「推進機関」の「名称」は「市民公募」を含めて検討するとある。名づけだけに巻き込まれて、市民も参加したと言われるのは、うれしくないぞ、という気分だ。

だが、それが一体何を指すのか、何をもって「戦略的」というのか、は、よく理解できなかった。教育機関というなら、意味の通じる説明がほしい。仕様がないので、過去の検討会の議論を振り返った。

しかし、ネット上には、議事録は第一回分しかあがっていないのだ。文科省担当課に電話してみたところ、おいおい上げていく予定だが、追いつかないので配付資料でみてほしいと言われた。それで配付資料を見てみると、第六回の検討会で事務局案として示された「報告書(素案)」では、具体的な名称「○○○○○○」(仮称)が想定されていたようなのだ。

教育・学習支援を通じて男女共同参画社会の実現を図る国の「戦略的推進機関」としての「○○○○○○」(仮称。以下同じ。)を創設する方向
「戦略的推進機関」が何を指すかをさらにこの素案からみてみる。

「○○○○○○」が、男女共同参画に関する「意識の変革」を戦略的に促進していくためには、1.対象者に応じた戦略的な教育・学習支援の展開、2.戦略的な教育・学習支援を支える調査・研究・プログラム開発、3.調査・研究・プログラム開発のための情報・資料の収集とその活用、といった機能が特に重要となる。
「戦略的推進機関」とは、われわれ市民の「意識の変革」をねらった機関とされている。どんな意識をどう変えるか、という点については以下のように述べる。

男女共同参画会議は、男女共同参画が進まない主な理由に、1.固定的性別役割分担意識が根強い、2.男女共同参画が働く女性の問題と認識され、男性を含む多くの国民の共通認識となっていない、3.社会の各主体のリーダーの認識が不足している、などを挙げ、「意識の変革」こそ最大の課題であることを示唆している。
要するに、私たち市民が固定的性別役割分担意識を持っていることが諸悪の根源であるから、それを変貌させるのに、決死の覚悟で臨むんだーという検討会委員の「意識」が感じられた。わたしたちの意識って、そんなに悪いものだったのかと感じてしまった。

というわけだが、ヌエックはこれまでも啓発事業を行ってきたわけであり、実はなんら方向転換を意味していない。なにやら管理職男性を対象とか、学校教員を対象とか、対象の範囲が拡がる程度のことである。ヌエックの意識啓発事業は、今後も継続されることが決まったということだ。意識啓発以外の事業への取り組みが進まない中、これだけの経費をかけて意識啓発事業を最も重要と位置付け、続けるのは、疑問に思う。

2)税金で運営される施設の費用対効果としてどうなのか

事業仕分けでは、理事長や理事など人件費の高さや、官僚の出向や天下り先など高コスト体質と投入する税金の大きさに対する費用対効果の悪さが指摘された。だが、報告書には、「宿泊施設等のハードの管理運営」を民間に委託することにさらりと触れるだけで、運営や財政の見直しにはほとんど触れていない。外部研究資金の活用や寄付金の拡大に触れている程度である。さらに、七回の検討会の配付資料を振り返っても、費用対効果が大きなテーマとなることはなかった。

3)そもそも一体ヌエックはなぜ存続されることになったのか

それは、今年の一月段階で、ヌエックの存続が閣議決定されていたからだ。廃止されるのは、102ある独立行政法人のうち、日本万国博覧会記念機構など3法人のみで、あとは、全部存続が決定している(独立行政法人の制度・組織の見直しについて)。しかも、ヌエックについては、その際、「民間との連携により効率化が進展していること等から成果目標達成法人として位置付けることか適当」と、効率化がすでに進展していると積極的に評価されていたのだ。

独立行政法人の見直しでは、新たな法人制度及ひ組織への移行に当たっての措置として、「独立行政法人の職員の雇用の安定に配慮」という役所内の雇用にまで気を使うようにご丁寧に注文が付けられているほどだ。徹底した官僚優先主義を前提とした見直しが決定されているのである。これでは上記ヌエック検討会の報告書が何も変わっていないのもむべなるかなと言えよう。

まあ、その代わりといっては何だが、この時も変更されたのは、名称だった。独立行政法人に代わり、「成果目標達成法人」(仮称)と「行政執行法人」(同)という新たな名称を創設していたのだ。

「戦略的推進機関」は、この時の「成果目標達成法人」(仮称)という「新たな名称の創設」(?)とうり二つの筋書きである。独立行政法人改革は、事実上棚上げ。棚上げの代わりに、新たな名称がつくり出されるという。新たな名称で、なんかアタラシーイ印象を醸し出せるということだろうか。

で、ヌエックは、「成果目標達成法人」になった。「成果目標達成」ってわざわざ言わなくても、すべての機関は成果目標をもっており、それを達成することをめざしている。いわずもがなである。「略したら、成人?」という声や、「看板かけかえるのもタダじゃないんだから改革したフリはやめてもらいたい」などネット上ではさんざんに書かれていたものだが、同感だ。

最後に。

単に名前だけ変えるのにも、看板の付け替えから道路のサインボードの掛け替えまで莫大な費用がかかる。名称を公募するにも人件費など経費がかかる。大きな変更もないのに、名前だけ変えるのは、経費だけかかって意味のないことだ。批判を浴びた高コスト体質の人件費の削減はないままに、「意識啓発」事業こそが男女共同参画推進のために最重要と再び位置づけられる中で、現状維持で存続が決定したヌエック。それをごまかし、見えなくするための名称変更ではないことを願いたい。

(初出  2012/09/04 2:44 pm)

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