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「にんしんSOS」の矛盾と自己責任論

(この原稿は、『週刊金曜日』の「論考」欄に投稿してボツになったものに若干の加筆・修正を加えたものです。)

『週刊金曜日』1月12日号に掲載された 平井康嗣氏の「にんしんSOS東京 中島かおりさん 」は、妊娠にまつわる相談を受ける「にんしんSOS東京」の活動に関するインタビュー記事だ。同団体の相談方針は「産む・産まないの決定権はあくまで本人にあるという『リプロダクティブ・ヘルス/ライツ』」だという。こうした妊娠相談を行うこと自体は重要だ。だが記事中では、同団体のサイトが、プロライフ(「胎児の生命」を優先し、女性の性と生殖に関する選択を否定し中絶に反対する立場)の「ライフ・ホープ・ネットワーク」(名古屋市)にリンクを貼っていたことも指摘されていた。中絶後遺症の相談先として術後の女性を二度紹介したことがあることも代表理事の中島氏は認めていた。

こうしたプロライフ団体との繋がりについて、中島氏は「中絶反対のメンバーはいないのでその質問は寝耳に水」だという。「リンクを貼ったことは軽率だったかも」とも述べ、リンクは現在、同団体のサイトから消えている。

だが、「ライフ・ホープ・ネットワーク」および同団体がカウンセリングのトレーニングを受けたという米国の団体(LIFE International)は、サイトを見れば、キリスト教系プロライフの団体であることが明白だ。

プロライフの立場と、「にんしんSOS東京」が掲げているという「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(リプロ)」すなわち「性と生殖に関する健康と権利」の視点は合致しない。中絶に反対するプロライフは女性の自己決定権を否定する立場だからだ。「にんしんSOS東京」が中絶手術後の人の相談先として、プロライフ団体を紹介したというのは、団体の方針と根本的に矛盾している。そもそも、中絶後の女性に、中絶を罪悪と捉える団体によるカウンセリングを勧めたというのはあまりに残酷ではないか。女性の性と生殖に関する権利(ライツ)を認めないプロライフ団体との繋がりは、「寝耳に水」とか「知らなかった」とし、リンクを消すだけで済むような簡単な問題なのだろうか。

中島氏は必要な支援の提供のためには「あらゆる団体が選択肢」だとも述べ、筆者の平井氏も奥付で、情報と選択肢を提供し最終的に相談者が決定するという立場が評価できるのだとする。だが、困り果てて藁を持つかむ思いで相談しているかもしれない女性が、根本的に矛盾した両論併記で情報を与えられ、それを冷静に考えて分析し、判断すべきであるという前提そのものが、弱い立場の人たちの置かれた状況を無視した単なる自己責任論なのではないか。

「にんしんSOS東京」も加入する「一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク」は、日本財団主導で作られたネットワークで、サイトではプロライフの民間団体が多く紹介されており、本誌12月8日号の大橋由香子・早川タダノリ対談で指摘されるように保守的な背景も見え隠れする。本誌には、一見わかりづらいやり方で、産むことが推奨され、リプロが危機に陥っている現状にこそ斬り込んで欲しい。

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妊娠SOSサイトに見る自己決定権の危機 

(本稿は、『週刊金曜日』2018年2月2日号(通算 1170号 )の「論争」欄に寄稿したものに、編集段階で削除された執筆記者名など若干の加筆を加えたもの。『週刊金曜日』の記事転載許可を得た上で、本サイトに掲載する。)

『週刊金曜日』2019年1月12日号の「AI時代の両生類たち」という平井康嗣編集主幹による「にんしんSOS東京」代表理事の中島かおりさんへのインタビュー記事を読んだ。どういう思いからこうした大変な活動をしているかがわかり、興味深かった。その一方で、記事に頻出する「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という女性の自己決定の権利(以下、リプロの権利)の表記や意味づけに一貫性が見られない点に不安も抱いた。

記事を読み、助産師である中島氏が監査役を務める「全国妊娠SOSネットワーク(全妊ネット)」に興味をもち、サイトを覗いた。すると「全妊ネット」の大半が自治体運営の窓口であった。さらに、「全妊ネット」の自治体窓口の大半が、助産師会に委託されていることの影響も気になった。例えば、最初から「産む」ことを前提としているところも多いのだ。「安心して出産できるよう、相談に応じます」というサイトや、「妊婦さんになったら『すこやか妊娠ホットライン』にご相談を」というサイトなど、選択肢が「産むこと」しか示されていないところも少なくない。

大阪府委託の「にんしんSOS」サイトでは、中絶をしたA子さんと出産をしたB子さんの体験談2例を載せている。だがA子さんは「あやまちを繰り返さない」と中絶を後悔する一方、18歳で妊娠したB子さんは、「味わったことのない感動」を体験したと、2例が対照的なのだ。

ネットで見る限り、不意の妊娠に対応する相談窓口は、十分な情報に乏しく、女性の人権として認められている「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」がなし崩しになっている懸念を感じさせられた。出産のサポートをする助産師が妊娠相談を担当する場合、出産を前提に相談に乗ってしまうという危険性は考えられないだろうか。

さらに、「全妊ネット」は、日本財団が、日本助産師会の協力を得て2015年に設立したものだ。日本財団は、作家の曽野綾子氏が笹川良一氏の後を引き受け会長になったことで知られる団体だ。「全妊ネット」は、「切れ目のない支援」という政府の少子化対策のキーワードを掲げている。さらに同団体は、「予期せぬ妊娠が原因」で生後0日目での虐待が多いと考え、「虐待死を防ぐこと」を目的にしているともいう。日本財団は、以前から特別養子縁組の普及や民間養子縁組団体への資金援助などを行う「ハッピーゆりかごプロジェクト」を行ってきた。養子縁組は少子化対策の方向性とも一致する。こうした妊娠相談窓口の強化も、その一環と考えられる。相談者個人の思いとは別に、産むことへのプッシュ要因が多いのだ。

内閣府の第四次男女共同参画基本計画では「生涯を通じた女性の健康支援」に「リプロの視点」の重要性が書き込まれている。しかし、妊娠相談窓口のサイトを見る限り、現場での「リプロの権利」は風前の灯火である。本誌には、女性の健康や権利がないがしろにされかねない妊娠相談業務の現状と課題をさらに深く掘り下げてほしい。