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「女性とマイノリティと労働者を支援するブラック企業?」をめぐる議論 マサキバージョン

執筆者:マサキチトセ

某ジェンダー・スタディーズ系メーリング・リストにおいて、あるフェミニズム系の企業が頻繁に求人広告を投稿していたのを不審に思っていた人は少なくないと思う。

私自身も以前友人が仕事を探していたときにこの企業からのメールの内容を教えたことがあるのだけれど、その後も何度も求人広告が投稿されるのを見て、「あら、欠員が出るの早くない?もしかして労働条件キツめ?だとしたらあの人(友人)、この仕事に応募しなくてよかったわ〜」と思っていた。

フェミニズム系の団体・企業においての労働条件の問題は、つい1年前あたりからの WAN (ウィメンズ・アクション・ネットワーク)の労働争議に関連して、一部のフェミニストや関連活動に携わっている/関わってきた人々のあいだではここ最近意識せざるを得ないような状況であった。それは、女性の雇用というフェミニズムにおける重要な問題と直接に関わるからであり、それは同時に、資本主義やそれと密接に関わると上野千鶴子氏が論じたところの家父長制とも切り離せない問題であるからだ(『家父長制と資本制―マルクス主義フェミニズムの地平』)。不安定な雇用、賃金格差、セクハラなど、女性と雇用の問題には様々な論点があり、フェミニズムにおいてはこれまでも様々な議論が重ねられ、多くの方々が改善に向けて活動してきた。そのひとつとしてユニオンWANの活動は数えられるだろう。

このような例からも分かるとおり、フェミニズムと雇用の問題は常に問題化されてきたし、労働条件の改善に関しては多くのフェミニストが力を注いできた。だから、小山エミさんがメーリング・リストに当該企業の労働条件について質問を載せたのは、そのようなフェミニズムの歴史的流れを鑑みれば当然のことである。その経緯は具体的にはメーリング・リストを参照してもらうしかないが、ログが公開にはなっていないので、以下のブログ記事を参考にしてもらいたい。小山さんが質問を出してからの経緯については、小山さんの3つめの記事に詳しく載っているのでぜひ読んでもらいたい。

その上で、私も遅ればせながらメーリング・リストに投稿をした。団体や個人が特定されないように伏字を入れた状態の内容が、これ。

みなさま

シカゴ大学大学院修士課程に所属しております、****と申します。

いま問題となっているのはこのML上において********・********事務所の労働条件についての書き込みを許容するか否か、というものかと思いますが、それよりも大きな問題としてそもそも、フェミニズムと深い関係にある********・********事務所において実際に被雇用者が劣悪な労働条件のもとで働いていたという事例が小山さんより紹介されているわけで、私はフェミニストとして、まずそこに注意を向けることが重要かと感じております。

といいますのも、このML上においてこのやりとりがなくなったところで、実際の問題は継続するだけです。ですからわたしの「良識」を総動員した結果、ジェンダー・スタディーズをテーマとしたこのMLにおいて今の段階でこの****に関する対話を中止にするのは、実際の被雇用者の現実を無視し、ジェンダー・「スタディーズ」という学問に携わる者として運動体内の権力関係について無関心を実践することになるのではないかと考えます。

また一方で、このMLにおいて、私のような****との直接の関係に無い者がそもそも口を出していること自体がもしかしたら被雇用者の方々の声を封じ込めている可能性はあります。しかし、だからこそ、実際に元雇用者の方と連絡を取ってその方の声をMLに届けた小山さんや、元雇用者として発言をされた投稿者の方以外の人間は、いま、ここで、「良識ある判断」により本ML上での議論を打ち切りにしたりするのではなく、****における問題にきちんと向き合うことが大切かと思います。少なくとも、口を出してしまった私や、ここ数日のあいだにこの問題について意見を投稿した方には、その責任があると思います。

まずは、実際の被雇用者や元被雇用者の方々の声に真摯に耳を傾けませんか?(注) 勇気を持って発言した方々(代弁を依頼した方も含め)の声を「個人情報」だとしてMLから排除しようとすることは、現実の問題から目を逸らすことになってしまいます。もちろん、あるいは、「MLでは語るべきではない」と考える方々が、ML以外の場所で****の労働条件の改善に向けて何か行動を起こすつもりなのであれば、それは素晴らしいことだとは思います。もしそうでなく、単にこの場での対話を中止することだけを主張されるのであれば、それは同じフェミニストとして非常に残念に思いますし、考え方の違いを認識するしかないのかなとは思います。もちろんフェミニスト同士で違いはあって当然で、それはむしろいいことだとは思うのですが、それは、ある意見によって他の意見が排除されないという条件においてのみ「いいこと」であることが出来るものだと思います。

わたしは、フェミニストとしての「良識」を総動員した結果、この対話が継続することを1人のML会員として希望しますし、この対話を通して、私に出来ることを模索したいと思っております。

****
シカゴ大学大学院社会科学学科修士課程
chicomasak@gmail.com
******@uchicago.edu
+1-312-****-****
http://start.io/castrated

注:「雇用者や元雇用者」と間違えて表記していたものを、「被雇用者や元被雇用者」と書き直しました。