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「生活保護とクィア」とフェミニズム運動

女性の貧困問題、労働問題については、フェミニズムには膨大な運動や言説の歴史がある。しかし一方で、現在のフェミニズムにおいて、この問題がどこまで主題として、あるいは主題でないにしても重要なフェミニズムの課題として認識されているかは分からない。非正規雇用がとてつもなく多い女性の労働問題に本来敏感でなければならないフェミニストもまた、NPOや大学内、その他あらゆる組織内で、労働者を搾取していることだってある。また、その中で労働者としての権利を主張することを控え、沈黙、あるいは抵抗の手を緩めているフェミニストもいる。更に、抵抗の声を上げたフェミニストに対して、その声を潰そうとしたり、懐柔しようとするフェミニストもまた、いる。そんな様子を現場で、あるいは端から見て、介入しようとしたり、介入を踏みとどまったり、あるいは目に見えない形で介入を試みるフェミニストもいる。

様々な立場の、様々な文脈での、様々な動きがあるフェミニズムにおいて、もう1つ忘れてはならないのは、そんなフェミニズムと労働・貧困問題の歴史の中で、常にクィアな女性が存在してきたということだ。

クィアな女性であることには、もちろん、「レズビアン」女性であることや、「バイセクシュアル」女性であること、「MTFトランス」であることが含まれる。もっと言えば、「レズビアン」や「MTF」、「トランス」という言葉を使わない人たちも含まれるし、積極的に「ダイク」という言葉に意味を込めて自称している人や、「女性」という名を引き受けつつ「FTX」や(最近では)「Xジェンダー」を名乗る人も含まれるだろう。逆に時代を遡れば、あるいはある種の文化の中に目を向ければ、「オナベ」「オカマ」という言葉で自らを認識している人も含まれるかもしれない(教科書的には「オナベ」や「FTX」を「女性」と呼ぶことは間違いなのだけれども)。

そして、クィアであることは、労働者としての権利をないがしろにされたり、貧困に陥ったりするということと、無関係ではない(そんなことは、これまで労働・貧困の問題に携わってきたクィアな女性にとっては、一目瞭然のことだろう)。クィアであることは、女性であることや、外国籍であること、日本語でのコミュニケーションが難しいこと、障害を持っていることなど、様々な要因がある中で、更に1つ、困難への道を開く要素となっている。

貧困の問題、非正規雇用の問題、派遣切りの問題などがメディアで取りざたされるようになってきた中で、これまでもずっと非正規雇用の割を食わされてきた「女性」の貧困問題ではなく、「これまでは正規雇用で普通にやってこれた」ような男性が新たに貧困状態に追いやられて行くことにばかりメディアの注目が集まることに、わたしたちは、強い違和感、あるいは絶望的な既視感を感じてきた。

そして、この、貧困問題や労働問題への主流な介入がすべての者を「男性」とみなした上で行われているような状況(それは必ずしも真実ではなく、女性の貧困問題に積極的に携わっている人がいることは事実だが)は、同時に、すべての者を「異性愛者の、シスジェンダーの男性」とみなすような状況であるということも、忘れてはならない。

「女性とは、誰のことなのか」と自問してきたフェミニズムは、「男」「女」という2つの立場があるという前提でのみ社会変革を試みてきたわけではない。むしろ、そういった枠組みの外に出て、積極的に多様な身体、多様な欲望、多様なアイデンティティ、多様な社会的立場の問題を考えることのできる可能性に満ちたものである。そしてそれは、現在「クィア」という言葉で表現されているような存在の仕方についても目を向けるような素地が、フェミニズムの歴史の中で生まれていたということである。

クィアとはフェミニズムのことではないし、フェミニズムとはクィアのことではない。けれど、クィアという言葉が現在のように政治的に使われだした背景にはフェミニズムの存在が大きかったというのも事実であり、反対にクィア運動や理論によってフェミニズム思想が大きな影響を受けてきたことも事実である。

以下に紹介する拙稿「生活保護とクィア」は、下書きの段階では「LGBTなどを含むクィアな人々」を読者層と想定して書いたが、掲載先のシノドスの編集を経て、必ずしもクィアの問題に詳しくない人であっても社会保障に関心がある人に読んでもらえるのではないかという文章になった。しかし、いくつかある後悔のうちの1つは、フェミニズム運動・女性運動や思想にきちんと言及しなかったことだ。

そこで、ここに紹介することで、クィアと生活保護の問題が、フェミニズム運動の歴史ともつながっていること、フェミニズム運動の中にも常に存在した問題であったことなどを、強調しておきたいと思った。

シノドスに掲載されたことで、クィアの問題に関心がある人だけではなく、様々な人に読んでもらうことができた。そして、現在LGBT運動に携わっている人からの反応も頂けた。ここで更に、フェミニズムの歴史に詳しいと自信をもって言うことなど到底できない私の文章に、フェミニズムに携わっている人、フェミニズムとともに歴史を歩んできた人などから、フィードバック、突っ込みなどが頂けたら、と思っている。

「生活保護とクィア」 http://synodos.jp/society/4252