WAN争議報告集会「非営利団体や市民運動における雇用や無償・ボランティア労働を考える-ユニオンWANの事例から」 議論の要点報告

執筆者:山口智美

NPO法人WAN(ウィメンズアクションネットワーク)をめぐる労働争議が2010年1月に始まり、5月に解決した。この争議についてはユニオンWANのブログを参照。また、この争議を支援する署名運動も行われ、170名もの方々からご署名をいただいた。署名運動のブログはこちら

このユニオンWANの争議を事例として、非営利団体における雇用・労働問題を考えるという趣旨の集会を2010年6月6日に、東京・田町の女性と仕事の未来館で開催した。講師として、ユニオンWAN委員長の遠藤礼子さんと、同ユニオン書記長のカサイさんにいらしていただき、お二人のお話を中心としながら、質疑応答、グループワークや全体議論などを行った。遅くなったが以下がその報告である。全部で4時間の長丁場な集会だったのだが、箇条書きにて議論の要点を記しておく。

集会では、まず遠藤礼子さんとカサイさんお二人が関わって制作された、DVD「均等社会は夢ではない」上映から開始。ユニオンにはいって労働者が職場を変えていくドラマが上映された。(カサイさんは女優のひとりとして登場)
その後、ユニオンWANの遠藤礼子さん、カサイさんのお話があり、質疑応答、グループワーク、全体討論という順に集会はすすんだ。

遠藤礼子さん 「WAN争議の経過と要点」

  • 遠藤さんが採用されたのは2009年3月半ば。サイトの6月の立ち上げが決まっていたが、その時点で2ヶ月くらいしかないのに何も決まっておらずリアルな話しが何もない状況だった。そんな中、遠藤さんは一ヶ月は業者との交渉に費やさねばならず、実際のウェブサイトづくりには一ヶ月しかなかったという。例えばわかりやすい事例として、雇用された当初、ショッピングコーナーをつくるという話しがあったが、具体的に何を売るのか、在庫管理や発送は誰がするのかなども何も決まっていないのに、業者の見積もりだけがでていたような状態だった。
  • ネットというものが理解できていない理事と話が噛み合ない状況があった。
  • NPOではパワハラが起きたり、上司や理事が何もわかっていない中、現場の人がすごく苦労していたり、話が食い違ってしんどい思いをしている事例というのは、最近の労働相談でも気になっていた。それをまさに自分たちがリアルに体験した感じだ。
  • 当初からいろいろなトラブルがあったこともあり、カサイさんとともにユニオンをつくり、文書を出したり団交を行ったりしていた。組合の要求としては、カサイさんの賃上げ要求、一時金、有給休暇の要求、過剰な作業量指示がパワハラにあたることの指摘など。だが、理事会側からの返答が遅いときが多かった。
  • そんな中、12月11日に理事長と副理事長3人が突然事務所に仕事の話があるからとやってきて、今まで遠藤さんがやってきた仕事は全部業者にやってもらうと言われた。解雇という事かといったら、解雇ではない、違う仕事をしてもらいたいと、組合も通さず突然にいわれた。今までと違う仕事をし、給料も下がり、時間数も減らせという要求はのめない、まず撤回してくれ、事前に相談するのは当然だろうと主張し、その場は物別れに終わった。そして、ユニオンでアウトソーシング撤回せよという要求を12月14日にだした。その後、非公式メールで先日の話しは誤解だといわれたが、25日に理事が5名ほど事務所にきて、11日と同じ話をされた。アウトソーシングではなく業者を変えただけだ、業者を変えたら結果としてそうなってしまったのだ、すでに決まったことですから、という説明だった。
  • WAN理事会としては、正月企画として新年にかわる瞬間に「おめでとう」と画面が変わるような企画をやりたかったらしい。業者は24時間体制で対応するからやってくれるが、年末年始に帰省する遠藤さんにはそれができないからという理由で何の相談もなく仕事を外された。しかしそれは事前にいってもらえれば、タイマーかけておけば簡単にできたことだ。
  • 1/1に、新春爆笑トーク企画の広告がどんとでて、理事長からの新年おめでとう挨拶がでていた。ここで決意し、1月4日にユニオン立ち上げの原稿を書いてWANサイトにアップした。「ユニオンぼちぼち」のようなかんじで登録したのだが、そのうち削除された。「ぼちぼち」が自分の争議のことを書いているのに、WANはダメというダブルスタンダードはまさかないだろうと思ったが、5時間後に消された。そして争議が始まった。
  • WANサイトへのユニオンWAN投稿へのアクセス数が5時間くらいで800にものぼっていた。こんなに瞬間的に掲載情報が広まったのはtwitterがあったからだと思う。
  • その後団交を1月から2月にかけて3度行ったが、具体的な交渉になかなか至らなかった。理事会が読み上げた事情説明文書には細かい間違いがかなりあったし、遠藤さんを批判する内容だった。
  • 2月2日に団交があり、労働条件について話しあう予定だった。だが、その2日前の1月31日の深夜、事務所を閉鎖することにしたので退職していただきたいというメールが突然届いた。今後の労働条件の話をする2日前にやめてくださいと送ってくるとは何ということと意表をつかれた。
  • 1月からは仕事を干されていたが、給料は支払われてきた。2月12日の団交の際、ユニオンの支援者が理事会のみならずユニオン側も知らない中でツイッター中継をしたが、そのことで理事会は怒っており、問題解決するまでは団交をしないといってきた。その後、団交がないまま給与は支払われている中、非公式なコンタクトがあり事務折衝を行った。そこでユニオンが解決への道筋を提示。そこで労働委員会のあっせんをすすめた。
  • あっせんで、理事会側の全面謝罪を勝ち取ったと思っている。解決金額(40万)に関しては残念ながら譲った。とにかく謝罪が重要だったからだ。金額は3ヶ月ぶんの給与にあたり、これは通常の争議の場合、ほぼ一年分とれて労働者側が勝利と考えることと、WAN理事たちの莫大な年収を考えれば、少額としかいいようがない。交渉相手に応じてもちろん要求額は変えるが、WAN理事の場合は莫大な年収をもつ人たちだった。
  • 訴訟になるかも、と考えさせられる局面が争議のなかで2回あったが、本当にこわさを感じた。「恫喝訴訟」の内容証明がきたときには本当にこわかったし、あまりに後味が悪い争議の終わり方だ。
  • 集団無責任という言葉を思い出す。集団になると無責任になってしまい、無根拠な自信と、権力の無自覚がより強化されるという状況があったように思う。
  • この争議の特異性ももちろんあるが、全国のNPO労働者と共通する点もたくさんあるはず。

カサイさん 「女の仕事の評価:シャドウワークとしての一般事務」

  • 一般事務という仕事、とくに運動団体におけるルーチンの職場の中の家事的仕事で、たとえばNPOの場合、会費管理が個人情報の管理という側面もあり重要な仕事だが、ルーチンで面白い仕事ではない。重要なくせに軽んじられる業務といえる。そして、評価と達成感と報酬が低い「めぐまれない仕事」でもある。でも、そういう仕事がNPOの日常業務なわけだ。そういう仕事の位置付けについてこの争議を通じて考えさせられた。
  • 最初の採用にあたり、事務局的な仕事をやってくれといわれてきた時には、遠藤さんがかろうじて道筋づけと分類だけはしておいてくれたものの、ごちゃごちゃの状態だった。それを遠藤さんらと相談しながら組み合わせて、理事に提案しながら仕事をしていった。達成感は自分で設定しながら仕事をしていった。
  • 1月31日、それまでは遠藤さんの労働条件についての争議だったものが、いきなり事務所しめるからという理由で退職勧奨をされた。ルーチンワークのほかにも自分はサイト管理者権限があり、仕事もしていたが、それを深夜の時点でいきなり削除され、引っ越しの仕事をしろとだけいわれた。事務をいっさいがっさい切ってしまいやっていけるのかとも思ったし、情けなくもなった。
  • 理事会発行の文書の中で、そもそもカサイさんの仕事はあまりなかったみたいなことを書かれ、ひじょうに衝撃を受けた。
  • 賃金の上で、「一般的な女性パートの時給」より高いといったふうに言われており(理事会文書2月14日付)「世間の非正規雇用とは異なる」のだ云々と言ったことにたいし、これが女性学の学者なのかと非常に驚き失望した。報われるというのは、賃金のみならず、仕事として必要でまかせているのだという認識など、ほかの要素もあるはず。
  • まさに遠藤さんがいっていた集団的無責任の状態だと思った。言っていることの意味をわかっているのかとも。
  • NPOをつくろうとしている友人にユニオンをつくったときに報告したら、「NPOで労組をつくることの意味は何なのか」といわれた。こぢんまりと労使で和気あいあいとなんでも思っていることが言えるような状態で自分たちはNPOをつくりたいのだと。そこに労組つくったらかえって大変なのでは?といわれ、それにも驚いた。なぜこうも食い違うのかとつきあわせて考えたところ、雇う側が権力性にどうしても気づかないと気づいた。雇う側は、フレンドリーに和気あいあいと、相手の意思を確認しつつ気を使っているつもりだが、雇われている側は、雇われているからもっと気を使わなくちゃ、でなかったらここでは働けないかもという、権力関係が発生する。こういうことに鈍くなっていては、NPOはいつまでも不合理、不条理な働き方、働かされ方をして、人間として働く側が消耗、沈没してしまうという危険性がある。
  • NPOにはいろいろな働き方をしている人たちがいるが、NPOだからといって立派とか健全とかいうこともない。
  • 信頼関係が私の側も失われたことがあり、とくに「恫喝訴訟」とも受け取れる内容証明の後はぐったり疲れてしまった。

質疑応答で話されたこと

  • 業者との話し合いに関しては、話しているということは知っていたが、話している内容についてはまったく知らされていなかった。
  • 指揮命令系統があまりなくて、現場の遠藤さんとカサイさんが仕事内容も考えて自分で自分に指揮命令をしていた状態だった。
  • 和解内容にブログ記事削除せよとか、和解内容を公開するなという文言は一切はいっていない。
  • NPOでいい仕事をしている団体でも、労使交渉の話しがでたとたんに仕事を干されたり、人間関係がどろどろになったりする場合が多いと会場から指摘。それに対して、遠藤さん、そういう話しこそしたいと。同じような問題があまりによくあるので、それを何とかしたい。

グループワークや自由討論で議論されたポイント

    • 日本がずっとつくってきた、官や大学などの制度的問題がある。研究者としての研究内容と乖離した、使用者としての無責任な行動についても、こういう制度によってつくられたものでもある。
    • NPOや大学のプロジェクトにおける労働問題がある。大学プロジェクトは雇用者は大学だが、具体的な研究は教授などが中心となる。だが、仕事の範囲が明確ではない、具体的な業績がどうなるのかなどの問題があり、そんな中、学生が劣悪な環境で働かされているが教師と生徒の関係のため避けることができない。NPOでは主婦的パートタイマーが大学における学生的な状況におかれており、構造的に類似した問題があると思われる。
    • 運動団体では目的が前面にたってしまうので、目的を達成しようとするあまり人間関係が後回しになってしまう傾向がある。また、指揮命令系統の問題が大きい。民間組織は責任者がいて窓口がいるなど、運営ルールが整備されているが、運動体はその責任のありかが曖昧になる。その結果、負担が現場にいってしまうのが問題。
    • 非営利団体の中に有償と無償労働の人がいる難しさがある。また、有償になっている労働の中でも、それに還元されない無償労働も含まれる。人間関係の中ですべてが決まる難しさもあり、そこで権力関係に意識しないと話しあいも成立しなくなる。
    • WAN争議の中で、事務所閉鎖の理由として、「無償ボランティアとの整合性」という理由を使われた。無償でこつこつやってくれる人がいるから、その人たちに申し開きができないのように言われた。賃金の発生の有無が仕事が上等だとか評価されるとかえらいとか、そういうことを意識してしまうような仕事配分がされていたのかとも思うと同時に、必要なんだが重要視されない事務という仕事はなんて軽んじられているのかとも思った。
    • 大学職員や自治体職員の、事務分野のひとたちが、雇用期間の上限が儲けられるなどして、使い捨てされる現状がある。そこまで軽んじられている労働なのか、だとしたらそれはなぜかなど、もやもやしている。
    • こういった問題について事例が身近にある人は語れるが、そうではないとわかりにくい。実例を共有できる場がもっと必要。
    • WANは大学教員が主体だが、大学教員というのはこういう活動は善意でやっている。そこで使われる人というのは、大学の中では徒弟制度的であり、上下関係ができているから、そういう中で善意でやってもらい、教育機会を与えているのにユニオンなんかつくるのか、というような発想は起き易いのではないか。
    • フェミニズムは賃金が発生する労働としない労働を、家事労働ということで追求した。同じテーマなのに、この問題は気づいていないかのようだ。事務労働は家事労働のように直接お金を生み出すものではないとういことで重視されない。
    • フェミニズム研究者が前面にでている団体でこういう状況が起きたのは、アカデミックなフェミニズムにとってもマイナスでまずいこと。
    • 女性のための組織、労働問題を扱う団体でさえも、「やりがいの搾取」やパワハラなどが存在する。権力関係やものが言えない関係があるということを常に意識しなければ、弱者は排除されてしまう。
    • 運動体にありがちだが、みな一生懸命やって無理して、心身ともに病んでいく。そのストレスのはけ口を弱者に求めることがある。
    • 内側から声をあげようとすると、社会的な団体のネガティブキャンペーンをはっていると思われてしまう。
    • 労働運動を30年ほどやってきていろいろな使用者を相手にしてきたが、一番質が悪いのがNPOだ。ボランティアが前提になっていることがある。ある団体と労働条件の交渉をやっていたとき、こういうところで働くにはボランティア精神が重要で労働条件改善なんてとんでもないということで、ものすごい大げんかをした。WANの場合も善意があるということが前提でやりにくかった。
    • NPOで働く女性たちは主婦労働がベースになっていて、有償でなくてもいいんだという前提がある。そこをクリアしていくために、もっと声をあげていかなくては。
    • NPOで働く人たちは各団体に1人とか2人とかで勤務していたりするので、ものすごく孤立しているはず。この争議を契機として、ネットワークをひろげていくようなシステムを考えたい。

ネットについてとくに言及するコメント

  • ネットにも詳しくない人たちが、ネットでサービス提供という側にまわるという問題があった。ウェブ社会になって、こういう問題がまた勃発するのではないか。
  • 署名は全然知らない人たちが声かけして集まったが、通常なら友達や組合によびかけて支援してくれるのだが違うパターンだった。
  • twitterなど、パソコンもってなくてもアクセスできるツールもできたし、全然顔をしらなくても応援できたということにつながったかもしれない。
  • ウェブでの活動なのに、理事会のウェブにださず水面下でというのに納得いかなかった。組合はネットにのせるのは勇気が必要だったと思うが、それをしたことで、ネットで行われていることだったからネット使う人たちは応援したい気持ちがありつながった面はあるかも。
  • WANサイトは、編集権限のありかなどが決まっておらず、曖昧なままでこのままだとどうなるのかという思いがあった。
  • 署名サイトに関わっている人たちは皆ブロガーという共通点もある。WANサイトがネットの公共性を無視しており、自分たちの立場も主張せずにクローゼットの中にこもっていることに疑問をもっている。
  • フェミニズム団体では、ネットができるという少数の人たちが過剰な仕事量をこなさなくてはならないが、その仕事内容が上の人たちにはわかってないという問題がある。
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