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「ジェンダーギャップ指数は、適切な指標か」への若干の補足

世界経済フォーラム(WEF)が発表した「ジェンダーギャップ指数(Global Gender Gap Index,GGGI)」は、女性の政治参画の割合や、出生率や健康寿命など異質な指標を加算し、単純に平均を出したものであり、それゆえに、各国の男女平等度を示す指標として適切ではない、というのが前回の記事の主張である。

内閣府男女共同参画局ですら、個別の状況を考察することなく、全体のランキングの上下だけをとりあげ、日本がいかに男女平等後進国かを示すデータとして活用している。だが、そのような指数の利用の仕方は、決して日本の差別状況を改善する方策にはつながらないことだけは確かである。

「ジェンダーギャップ指数」というのが、それぞれの社会の性差別状況を指し示す「適切な指標か」と、統合化された指標の妥当性について疑問附を投げかけたもの。統合的な指数の妥当性に疑問符がつく以上、それによって算出された各国の男女不平等状況についての妥当性も担保されていないと考えられる。

しかしながら、日本の性差別状況に問題がないということを主張したものではまったくない。女性の平均賃金が低いなど日本の性差別状況は依然厳しいことは厳然たる事実である。

「ジェンダーギャップ指数」には、健康医療の機会、教育機会、政治参加、経済的平等という4つの領域があり、健康や教育領域では日本は平均寿命は女性の方が長いなどすでにギャップがほぼ埋まっている(この指標では、女性のほうが数値が高い場合に関しては、ギャップとしてカウントされない仕組みである)。しかし、政治の領域では日本は女性の参加が少ない。経済的平等についても確立できていない。日本は、今年度の経済ギャップは昨年度より縮小したが、そのスピードが遅いと経済フォーラムの年次報告は指摘している。こうした個々具体的な指標の変化について、多くの報道では取りあげられていなかったようだが、個々具体的な指標の結果をもたらす背景をしっかり分析し、それを改善するための施策こそが、もっとも重要な点である。

日本社会の不平等を本気で改善しようと思うなら、政治参加や経済領域などそれぞれの領域において、どの差がどう変化したのかを経年的に検討し対策を練ればよいと思う。それは、この指数の利用方法としても有効なものだと思う。

(初出 2012年11月26日)

ジェンダーギャップ指数は、適切な指標か

今年も世界経済フォーラム(WEF)が今年の世界各国のジェンダーギャップ指数ランキングを発表した。
参考:グローバルジェンダーギャップレポートのサイト今年の世界各国のジェンダーギャップ指数ランキング(PDF)

メディアは、「男女平等ランク、日本は世界一三五カ国中、一〇一位」(読売新聞2012年10月25日)「男女平等ランク、日本は一〇一位に転落 上位四位は北欧」(朝日新聞2012年10月25日)など、アイスランド、フィンランド、ノルウェーなど北欧が上位で、日本は低い順位にあることを大きく報じている。

だが、この指数は、かねてより統計の専門家らより疑問が投げかけられており、国立女性教育会館(以下、ヌエック)のニューズレター(PDF)などでも問題点が指摘されている。さらに決して多いとはいえないが、ネット上でも批判が展開されてもいる。例えば、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数/男女平等指数の読み方男女平等度「ジェンダーギャップ指数」のここがダメですなど。

それにもかかわらず、マスメディアでは何の留保もなく「日本の男女平等度が低い」指標として再三再四、無批判にとりあげられてきた。

そして、文部科学省が設置した審議会の「国立女性教育会館の在り方に関する検討会」でも、検討会委員や検討会座長らが、ヌエックの存続が必要な根拠として、ヌエックのニューズレターで批判されている、当のジェンダーギャップ指数を、「男女共同参画が進まなければ、日本の未来は拓けない」「男女共同参画の推進が、現在の我が国の最重要課題であるという大きな視点に立」つべき、とするための参照データとしてあげていた。いかに、この指数の問題点が、とりわけメディアや、男女共同参画の専門家や活動家に、浸透していないかを示している。

 

以下、『社会運動の戸惑い–フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』でジェンダーギャップ指数を取り巻く状況について書いたことを、限られた字数であり、脚註の文章ということもあり必ずしも十分とは言えないが、批判が少なすぎるゆえにここで紹介しておく。

男女共同参画が遅れている根拠として国立女性教育会館の在り方に関する検討会で、堂本暁子委員や、大日向雅美座長らが挙げているのが、世界経済フォーラムが算出する「ジェンダーギャップ指数」に基づく日本のランキング(一三五か国中九八位:二〇一一年)である(国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012c,国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012f)。

しかしながら、ごく一部の例だけを、「男女比」という基準のみに基づいて男女平等度を評価し、国ごとに格付けするというこの指数については、平均寿命の男女比と出生時の男女比など異質な指標を総合し単純に平均を出すという計算方式、何を指数に選ぶのかなどのウエイトづけ、計算根拠など多くの疑問が出されている(杉橋2008; 伊藤2009)。

「これは『男女平等の指標ではない』」、「マスメディアをはじめとして、批判的注釈なしにそのまま引用して使ってしまう傾向があり、あやしげな数字の一人歩き、そして世論誘導がますます強まってきている」という厳しい批判や、それゆえ『2010年人間開発報告書』からは、削除されるようになったことが、ヌエックが発行するニュースレターにも掲載されている(杉橋・伊藤 2011: 9-11)

 

参考文献

 

・伊藤陽一,2009,「ジェンダー統計研究(10):性別格差の総合指数について1── GEM とGender Gap Index を材料に」『経済統計学会ジェンダー統計研究部会ニュースレター』(10-15号) http://www.hosei.ac.jp/toukei/shuppan/g_shoho38_12ito.pdf
・国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012c,第二回配付【資料4-3】堂本委員提出資料(1)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/026/shiryo/attach/1321146.htm
・国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012f,第五回検討会配付【資料2】「論点2日本の男女共同参画の現状と課題について(検討メモ)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/026/shiryo/attach/1323291.htm

・杉橋やよい,2008,「ジェンダーに関する統合指数の検討──ジェンダー・ギャップ指数を中心に」戒能民江編著『ジェンダー研究のフロンティア1巻 国家/ファミリーの再構築──人権・わたし的領域・政策』作品社:230-249.

・杉橋やよい・伊藤陽一,2011,「主要統計指標の開設(3):ジェンダー不平等指数(GII)(UNDP『人間開発報告書』の新指標)『NWEC 男女共同参画統計ニュースレター』No.5: 9-11.
http://www.nwec.jp/jp/data/NWEC-GSNL.6_20110623.pdf