今年も世界経済フォーラム(WEF)が今年の世界各国のジェンダーギャップ指数ランキングを発表した。
参考:グローバルジェンダーギャップレポートのサイト、今年の世界各国のジェンダーギャップ指数ランキング(PDF)
メディアは、「男女平等ランク、日本は世界一三五カ国中、一〇一位」(読売新聞2012年10月25日)「男女平等ランク、日本は一〇一位に転落 上位四位は北欧」(朝日新聞2012年10月25日)など、アイスランド、フィンランド、ノルウェーなど北欧が上位で、日本は低い順位にあることを大きく報じている。
だが、この指数は、かねてより統計の専門家らより疑問が投げかけられており、国立女性教育会館(以下、ヌエック)のニューズレター(PDF)などでも問題点が指摘されている。さらに決して多いとはいえないが、ネット上でも批判が展開されてもいる。例えば、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数/男女平等指数の読み方、男女平等度、「ジェンダーギャップ指数」のここがダメですなど。
それにもかかわらず、マスメディアでは何の留保もなく「日本の男女平等度が低い」指標として再三再四、無批判にとりあげられてきた。
そして、文部科学省が設置した審議会の「国立女性教育会館の在り方に関する検討会」でも、検討会委員や検討会座長らが、ヌエックの存続が必要な根拠として、ヌエックのニューズレターで批判されている、当のジェンダーギャップ指数を、「男女共同参画が進まなければ、日本の未来は拓けない」「男女共同参画の推進が、現在の我が国の最重要課題であるという大きな視点に立」つべき、とするための参照データとしてあげていた。いかに、この指数の問題点が、とりわけメディアや、男女共同参画の専門家や活動家に、浸透していないかを示している。
以下、『社会運動の戸惑い–フェミニズムの「失われた時代」と草の根保守運動』でジェンダーギャップ指数を取り巻く状況について書いたことを、限られた字数であり、脚註の文章ということもあり必ずしも十分とは言えないが、批判が少なすぎるゆえにここで紹介しておく。
男女共同参画が遅れている根拠として国立女性教育会館の在り方に関する検討会で、堂本暁子委員や、大日向雅美座長らが挙げているのが、世界経済フォーラムが算出する「ジェンダーギャップ指数」に基づく日本のランキング(一三五か国中九八位:二〇一一年)である(国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012c,国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012f)。
しかしながら、ごく一部の例だけを、「男女比」という基準のみに基づいて男女平等度を評価し、国ごとに格付けするというこの指数については、平均寿命の男女比と出生時の男女比など異質な指標を総合し単純に平均を出すという計算方式、何を指数に選ぶのかなどのウエイトづけ、計算根拠など多くの疑問が出されている(杉橋2008; 伊藤2009)。
「これは『男女平等の指標ではない』」、「マスメディアをはじめとして、批判的注釈なしにそのまま引用して使ってしまう傾向があり、あやしげな数字の一人歩き、そして世論誘導がますます強まってきている」という厳しい批判や、それゆえ『2010年人間開発報告書』からは、削除されるようになったことが、ヌエックが発行するニュースレターにも掲載されている(杉橋・伊藤 2011: 9-11)
参考文献
・伊藤陽一,2009,「ジェンダー統計研究(10):性別格差の総合指数について1── GEM とGender Gap Index を材料に」『経済統計学会ジェンダー統計研究部会ニュースレター』(10-15号) http://www.hosei.ac.jp/toukei/shuppan/g_shoho38_12ito.pdf
・国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012c,第二回配付【資料4-3】堂本委員提出資料(1)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/026/shiryo/attach/1321146.htm
・国立女性教育会館の在り方に関する検討会 2012f,第五回検討会配付【資料2】「論点2日本の男女共同参画の現状と課題について(検討メモ)」
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shougai/026/shiryo/attach/1323291.htm
・杉橋やよい,2008,「ジェンダーに関する統合指数の検討──ジェンダー・ギャップ指数を中心に」戒能民江編著『ジェンダー研究のフロンティア1巻 国家/ファミリーの再構築──人権・わたし的領域・政策』作品社:230-249.
・杉橋やよい・伊藤陽一,2011,「主要統計指標の開設(3):ジェンダー不平等指数(GII)(UNDP『人間開発報告書』の新指標)『NWEC 男女共同参画統計ニュースレター』No.5: 9-11.
http://www.nwec.jp/jp/data/NWEC-GSNL.6_20110623.pdf